ノロの思い出

懐かしい犬の写真が出てきた。

子供の頃実家で飼っていた雑種犬である。

ノロという名前だった。

ノロはよく脱走した。

脱走してからしばらくしてヨロヨロと片足をかばいながら、しょんぼりと帰ってきたことがある。

その後、僕の友達が来て「ノロがウチの前で車に跳ねられてたけど大丈夫!? シッポ取れちゃったよ、、コレ。。」

と泣きそうな顔をしながらノロのちぎれた尻尾を持ってきてくれた。

見慣れたこげ茶色の尻尾をつまんで差し出す様子は全くもってシュールだった。

急ブレーキを踏んだ車のタイヤに挟まれた尻尾が切れたのだと言う。

犬小屋の奥に丸まって上目で情けない顔をしているノロを引っ張り出して見てみたら、骨だけになった尻尾をいつものように振っていた。皮だけ途中から千切れたのだ。特に痛がる様子もなく、この光景もシュールだった。

獣医さんとこに連れて行ったら皮が残ってるところまで骨を切り取るしかないということになり結局、短い尻尾になってしまった。

ノロは僕が小3の頃、父がどこかの知り合いからビーグル犬だと言われて貰ってきた。

愛嬌のない顔をしていたが、おっとりとした子犬だった。

僕がノロと名付けた。ノロノロと動いていたのが印象的だったからだ。

顔の部分から背中にかけて茶色で腹側から足は白い。

耳が垂れていて一見するとビーグル犬ぽいがなんかちょっと違う気がすると母が言った。

そもそもビーグル犬がどんな犬なのか誰もわかっていなかった。

あの頃は犬は外で飼うのが一般的だったのでノロも庭に繋げられた。

犬小屋は日曜大工が得意な祖父が作った。

屋根の素材はなぜか曇りガラスのような半透明のアクリル板で周りは白く綺麗に塗られていた。

祖父は、屋根の素材にこだわったんだと得意げだったが、その屋根のせいで夏になると犬小屋の中はかなりの灼熱となり、暑い日に小屋の中でのぼせたノロはヨロヨロと外に出てきて庭の地面に大きな深い穴を掘り、その中で体を冷やした。

庭は掘った後の泥でぐちゃぐちゃになり白い犬小屋もノロも汚れた。

そのうち犬小屋の下まで穴を掘るようになり、小屋は沈んで斜めになりブロック塀に押し付けられた屋根が割れ、しばらくして壊れた。

二つ目の犬小屋も祖父が作った。屋根は普通のプラスチックのトタンに改善され、側面には換気口まで付けられた。

穴掘り作業で鍛えられたノロの肩周りは逞しくなり、大きくなるにつれ垂れていた耳はピンと立ち、黒目はエメラルドグリーンのような綺麗な緑色に縁取られ、なんとなく凛々しい顔立ちになった。

その頃にはこの犬がビーグル犬だという話は笑い話に変わっていた。

人には吠えることもなく優しい性格の犬だったが、散歩中に他の犬に会うとものすごい勢いで襲いかかってしまうやたら闘争心の強い犬だった。

ある時、多摩川の土手まで散歩に連れて行き川に入りたがるのでそのまま泳がせたら、流れが激しい渦になってる場所にはまりこんで顔だけ出したままグルグル回った。

父が川に入ってなんとか助け出し陸にあげたが、とたんに、散歩に来ていた犬に飛びかかり大喧嘩になってしまった。

あまりの激しさに父も相手の飼い主もしばらく止めに入ることができず「コラ!やめろ!」と大声を上げるだけだった。

両方の犬の首元が血で真っ赤に染まったころなんとか引き離したが相手の犬は結構なダメージで、だらんと泡混じりの舌を垂らし伏せてしまった。父が「こらっ!ノロ!こいつめ!」とか言いながら首輪を掴み首吊り状態になったノロを片手にオロオロと相手の飼い主に謝ったが、今だったら大変なことになっていただろう。

だから僕は散歩中の犬たちが仲良く挨拶しているのを見ると今でも不思議な気持ちになる。

とにかく半端なく元気な犬だった。散歩に出た際、勢いよく引っ張られて転んだり、そのまま引きずられていろんなところを擦りむいたりすることはよくあったし、急に引っ張られた拍子に鋭く尖った物に足をぶつけてしまい、病院で脛をずいぶん縫う怪我をしたこともある。この時は大変だった。

写真一枚見るだけでこんなにたくさん思い出が溢れ出てくるコイツにまた会いたいがもう会えない。

この写真はノロが亡くなるちょっと前にhiromixの影響で持ってたコニカのビッグミニで撮った覚えがある。

ノロは僕が二十歳をちょっと過ぎる頃まで生きた。

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